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ベングリオン(1886~1973)は「イスラエル建国の父」と呼ばれる不世出の巨人、20世紀最大の政治家である。世界的にはよく知られているが、それでも日本ではその人物の軌跡についてまだ充分に紹介されていない。本書は、ビジネス界に身をおいて企業戦士としてこれまで活躍してきた著者が、「ベングリオン」という男に出会ってすっかりその虜となってしまい、ベングリオンが67歳で移り住んだ砂漠の中のキブツ(スデー・ボケル)に滞在して取材したドキュメンタリーである。

著者の大西俊明氏は2008年4月から3ヶ月間、念願のイスラエルに滞在した。著者の驚きと感動、興奮と共感が随所に溢れていて、著者の熱い息遣いが聞こえてくるようである。

日本の最近の20年間は14人もの首相が次々と入れ替わり、凋落傾向は加速して、失われた20年とも言われている。閉塞感が漂い、国の活力が低下し、若者が希望を見失っている日本の現況下にあって、今ほど高邁なビジョンと強力なリーダーシップを兼ね備えたリーダー(特に政治家)が求められている時はない。この書を通して私たちはもう一度真の指導者のあるべき姿を知り、今後の歩むべき目標が示唆されると思う。

イスラエルは1948年5月14日に独立した。ローマ帝国によってエルサレム神殿が紀元70年に崩壊された後、ユダヤ民族は余儀なく世界各地に離散したが、民族の悲願はここに奇跡的に成就した。この時この偉大な導者ベングリオンがパレスチナにいなかったならば、新国家樹立の偉業は決して成らなかったであろう。著者の言葉を借りると、このベングリオンは「劇的な瞬間での指導者」であり、「決断を迫られるときに力を発揮し、色々の劇的な瞬間での指導者としては彼の右に出る者がいない」と評されるリーダーであった。

ベングリオンは言う、「国の運命は二つの要素、即ち己の力とその公正さによる。この二つがイスラエルの存続と発展の真の条件である」と。己の力とは取りも直さず「イスラエルの国の安全を保証する強い軍隊」だが、特に注目したいのは、二つ目の公正さとして「高い道徳律に支えられた、世界に光を放つ、模範的な社会」を目指すと言っていることである。このビジョンのもと、二千年前の国の喪失により外国の支配下に入ることに慣れ切ってしまった人々に、自らが主体者となり、自分たちの責任において政府を作り、運営する国造りを指導し、押し進めていったのである。

イスラエルは今年で建国63年目を迎えるが、今では中近東の中で唯一の民主国家として大きく発展している。

ベングリオンの晩年も大変興味深い。詳しくは本書に記されているので触れないが、「ネゲブの砂漠を緑の園に!」、「荒野という困難な場所にこそ希望がある」と最期まで理想を追い求め、開拓精神と少年の素直さを失わなかった。彼の描いたビジョンは脈々と受け継がれていって、今では荒野に忽然と現れる広大なオリーブ畑、砂漠の中の巨大な貯水池と養魚場、ベングリオン学園村でのさまざまな砂漠開発の研究等とその実が着実に実りつつある。

著者はビジネスマンの目で、砂漠研究の一環としての太陽光発電や海水の淡水化の取り組み、また砂漠における農業について詳細に述べているのも本書ならではの面白さである。

ベングリオンは終生聖書を愛読し、深く研究し、聖書からその時々にさまざまなインスピレーションを汲んで難局を乗り越えてきた。聖書こそベングリオンにとって内的力の源泉だったと本書はその秘密を解き明かしている。最後に彼が亡くなった妻ポーラに捧げたこの聖句をもって終わりたい。「主はこう言われる、私はあなたの若い時の純情、花嫁の時の愛、荒野なる、種まかぬ地で私に従ったことを覚えている(エレミヤ書2章2節)」

(高橋岩夫 世田谷在住 会社員)

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「砂漠の預言者ベングリオン」(新版・自費出版) 税込価格 : 2,000円
著者・発行者 大西俊明
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