シャローム!学生部会の中山智之です。

明けましておめでとうございます。皆さんの中にはワインを楽しみながら年末年始を迎えた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

日本ではあまり流通していないこともあってほとんど知られていませんが、実はイスラエルは知る人ぞ知る、ワインの名産地です。

ということで今回は、個人事業としてイスラエルワインの輸入・販売を手がける、IJCMドットコム代表の藤野雅俊様にお話を伺いました。

Leader

Q. 藤野さん、よろしくお願いします!まず藤野さんの経歴、IJCMドットコム設立に至るまでを教えてください。

IJCMドットコム藤野代表
IJCMドットコム代表 藤野雅俊様

私は小中高、そして大学とずっとサッカーばっかりやっていましてね。昔の体育会系です。大学入学前の春休みから、サッカー部に入って練習をしていたくらいでした笑

大学ではトポロジーの研究をしていて、大学院修了後日立に入社しました。他にも色々なメーカーがありましたが、私の性格的に、日立のカルチャーに合っていると思ったんです。

日立には様々な事業がありますが、当時鉄は国家なりという時代ですからね、一番迫力があって私に合っていそうな鉄鋼を選んだんですよ。大みか工場で圧延プラントの制御に関わる仕事をしていました。

30歳位の時、日立がブラジルでプラントを納めるプロジェクトがあって、そのスーパーバイザとしてブラジルに駐在することになったんですよ。リオ・デ・ジャネイロから内陸のベロ・オリゾンテへ飛んで、そこから山道を半日かけて車で移動したウジミナスという所です。着任当初は三ヶ月の予定でしたが、予期せぬ出来事が発生するなど、最終的に一年間ブラジルで過ごして、日立の最新鋭圧延プラントの稼働を無事見届けて帰ってきました。

帰国後も設計の仕事をしていました。鉄鋼というのは大きなプロジェクトなので、朝から晩まで仕事をしているわけですよね。帰宅は午前1時2時。土日も無い生活を送っているうちに女房が、こんな生活嫌だと言い出しましてね。

私も家庭を顧みず仕事ばかりしていて申し訳なかったと反省しまして、思い切って生活を変えようと転職をすることにしたわけです。しかもしがらみの無さそうな外資系が良いだろうと。それで32歳で日立を辞めました。

それで日本ディジタルイクイップメント株式会社に入社しました。米国のディジタル・イクイップメント・コーポレーション(DEC)はミニコンピュータという世界を創り出した会社で、当時はIBMのメインフレームに対抗できるもの、そしていつかはIBMを凌駕するだろうって言われていたんですよ。

Entry

こうして外資系の世界に入って10年位ハードウェアの仕事をしてきたんですけど、今から15年位前に、 BMCソフトウェア株式会社に移りました。

BMC SoftwareはIBMのメインフレームに関わるソフトウェアを開発していたんですが、1999年にNew Dimension Softwareというイスラエルの会社を買収したんですね。この会社はIBMのメインフレームのスケジューラのソフトウェア開発でナンバーワンの会社です。

それでイスラエルとの付き合いが始まったんですけどね、まあ偉い目に遭いましたね。考え方とか発想が全然違いますからね笑。

その後、株式会社MOSTテクノロジーズジャパンへ転職しました。MOST Technologiesはイスラエルに本社があって、DB2周りのソフトウェア開発をしています。

ここで働き始めてみるとね、オフィスにワインがたくさん置いてあるわけですよ。そこで初めて出会ったんです、イスラエルワインと。これは何だって聞いたら、お客様にお渡しするワインですと。たくさんあるから飲んでみようやって飲んだらこれが美味しかった笑。イスラエルっていうのはこんなに美味しいワインを造っているんだって。

Psagot Edom 2013
Psagot Edom 2013
(IJCMドットコム 藤野雅俊様より提供)

それから4年位経って、そろそろリタイアしようと思って会社を辞めた時に、この美味しいイスラエルワインを日本に広めたいなと思ったんですね。それで始めたのがこのイスラエルワインのビジネスです。今から4年前のこと。やっとたどり着きました笑。

今思えば、ワインに絡んで良かったなとつくづく思いますね。これまでずっとIT業界だったでしょ。でも食品業界になるとお付き合いする人がガラッと変わるし、話題も豊富でとっても楽しい。生活も楽しくなりますね。

Selection and Concentration

Q. IJCMドットコムはイスラエルワイン専門なのですね。

イスラエルワイン専門の通信販売、卸の販売をしています。と言っても初めはね、Israel Japan Commerce and Marketing、つまりイスラエルと日本のコマースやマーケティングに絡んだITコンサルティングがメインで、ついでにワインビジネスをやろうと思っていたんです。

ところがやっているうちにワインビジネスが面白くなってきたんです。それにやるからには一つに集中した方が良い。あちこち手を出したら成功なんかできないなと。だからワインだけに、しかもイスラエルに集中することに。私が一番強いのはイスラエルワインですから。

Q. イスラエルワインは認知度が低いにも関わらず、イスラエルワイン専門なのですよね。閉じてしまいませんか。

検索数はめちゃくちゃ少ないですね。イスラエルワインって検索する人が月何人いると思いますか?300人位しかいないんですよ。

引き寄せるためはイスラエルワインだけじゃだめでしょうね。つまり色々な手で呼び集めて最後にイスラエルワインを買ってくれるようにしなきゃだめだろうと。

だから色々なことをやりましたよ。例えばアフェリエイトの広告も出してみたわけですが、その結果ね、意味ねえやって笑。客層が違うなと。イスラエルワインは高いから、アフェリエイトのマーケットで買う人はいないんですね。高級志向の市場を狙っていかなきゃいけないと思っています。

ウェブサイトも今まで全て一人で作ってきたんですが、今お金をかけて作り変えているところです。一度他人のアイデアや知恵を入れてみようかなと思いましてね。来週近くに完成します。

IJCMドットコムウェブサイト
IJCMドットコムウェブサイト トップページ
変更前(左: 2016年12月23日時点)と変更後(右: 2016年12月31日時点)

加えてありとあらゆる情報の発信。メルマガやブログ、Facebookだけじゃなくて、色々なことをやるしかないなと思っています。

今度からはギフトもやります。まとまった量を倉庫から出荷する場合はギフト出荷もしてくれるんですが、1、2本のワインだったら予め自宅にストックしてあるものを私が梱包した方が効率が良いんです。ただ大変なんですよこれが。きれいに梱包しないとお金もらえませんからね笑。ラッピングの練習をしています。

Dashi

Q. 他のワインと比べてイスラエルワインの魅力や味の違いを教えてください。

イスラエルワインはアルコール度数が高めなんですけど、アルコール度数が高くなると甘みが増えて濃厚になるわけです。日本人にはとても飲みやすいと思いますよ。

フランスワインはアルコール度数が低い分、甘みが少なく淡白な印象になります。もちろんフランスワインにも色々な味がありますが、ある程度飲み慣れないとあの美味しさは分からないと思うんですよね。

では何で甘みが大事かって言いますと、私見なんですけど、日本ってだしの文化があるでしょ。だしの中には甘みがある。その甘味に日本人は親しんでいると思うんですね。色々な日本のワイナリーツアーに行って、日本人はどう反応するかなって観察していますと、セミドライの少し甘いワインをみんな「これ美味しいね」って言うわけですよ。もちろんイスラエルワインは単に甘いだけじゃなく、厚みがあって、これが日本人に合うと思っているわけですが。

Q. IJCMドットコムで販売されている、人気のワインやおすすめのワインを教えてください。

若い人は少ないですね。買う人は40代50代の年配の方が多いですね。

誰が飲んでもレストランに卸しても、これは美味しいってのがビンヤミナのシャルドネ。これはほんとに評判が良いですね。メルロなんかも良い。それからプサゴットのカベルネが良いですね。めちゃくちゃ美味しい。美味しいんですよほんとに!笑。ペルターもすごく美味しい。ノンコーシェルでイスラエルではナンバーワンの規模のワイナリーですかね。安いワインではセガルのメルロも売れますね。めちゃくちゃ売れてます。高けりゃ良いってもんじゃありません。

In My Own Style

Q. 金銭感覚が狂ってきました。早く飲んでみたいです。そのプサゴット カベルネ・ソーヴィニョン 2012ですが、藤野さんはこう表現されています。”深いガーネット色。ハーブ、プラム、オーク、バニラなどの香りに、微かにチョコレートの風味も感じられます。 ラズベリーやプラム、チェリーなどの豊かな果実味と花の香り、酸味、チョコレート、オークの香り、たばこ風味などがバランスよく交じり合い、豊かな風味を造りだしています。フィニッシュはとても長くスパイシーで、バニラ風味、レーズン、たばこ香、そして豊かなタンニンが楽しめます。”
どう意識すればこんなにたくさんの香りを感じることができるのですか。

自分のワインをどうやって表現するか勉強するわけですよ。ソムリエにはこう言ってはだめだ、こう言うべきだってプロとしての規範があるわけです。でもそうすると表現が一律になってしまうと思っています。私はワインを飲んだ感情を素直に自分が思った通りに表現してやろうって思っています。

だからプロから見ると何だこれはって表現になるわけですよ。絶対こんな表現しないでしょうから。全部自己流。やりたいようにやっています。

Tishbi Estate Cabernet Sauvignon 2008
Tishbi Estate Cabernet Sauvignon 2008
(IJCMドットコム 藤野雅俊様より提供)

Q. どのような基準でワインを選ぶのか教えてください。

パーカーポイントとかワインスペクテイターで評価が高いワインが私に合うということではないんですよ。この商売では自分の舌が頼りですから、ワインを1本ずつ全部オーダーして自分で一生懸命試飲して、その中から日本人の口に合うな、と信じたものじゃなきゃ発注しません。人を頼らないこと。それで売れなかったらしょうがないですよね。

それからワインを飲む時は必ずメモを取りますし、1本に三日かけるわけですよ。今日飲むでしょ、そしたら二日目はどんな味になるだろうか、三日目はどうだろうか。変化を感じながら、一生懸命そのワインを理解しようと努めます。一週間に一日だけ飲まない日があるんですけど、それ以外は毎日飲んでいます。

You’ll Be Back

Q. イスラエルでは家族経営のブティックワイナリーが多いと言われますが、その理由は何だと思いますか。

元々イスラエルというのは、数千年前はローマ帝国にワインを輸出していたほど、有名なワインの地だったわけですよ。それがオスマントルコに征服されて途絶えちゃった。

でも現在のイスラエルでは、その当時のワインを復活させようという取り組みが盛んに行われています。そういう昔のブドウだけでできたワインを造ろうとか色々な活動があるわけです。

それにイスラエルは四国位の大きさで非常に狭いんですけど、標高差があり、地中海も砂漠もある。気候が千差万別なんですね。だからできるブドウが非常に多様性に富んでいる。

それから農業の傍らにワイン造りを始めたとか、最初はあのガレージで200本造ったという話をいっぱい聞きますし、ブドウをもらって造ることもできる。

こうした背景があって、多くのブティックワイナリーや個性豊かなワインができるのではないでしょうか。最近ではアメリカやヨーロッパやオーストラリアとかでワインの勉強をしてから、イスラエルに戻ってきて、ワインを自分の仕事として家族で始めるというのも多いそうです。

プサゴット・ワイナリー
プサゴット・ワイナリー(Psagot winery)
(IJCMドットコム 藤野雅俊様より提供)

Q. イスラエルでは兵役がありますよね。日本の青年が彼らから学べることは何だと思いますか。

兵役後、彼らのとる行動がとても参考になると思います。彼らは兵役の給料で世界旅行をするわけですよ。違った所に必ず行くんですって。それでイスラエルに帰ってくる。で働いてまたお金がたまるとまた旅行に行くんだそうです。そういう習性を持っていますね。

タクシーの運転手さんが話してくれたんですけどね、兵役が終わって、インドの山奥に旅行したそうです。ここならイスラエル人なんか誰もいないだろうって。そうしたら向こうからヘブライ語が聞こえてきたんですって笑。

日本人と違って一箇所に根を張るのではなく、とにかく色々なものを見て歩こうという意識がとても強い気がしますね。素晴らしいことだと思うんです。命のやり取りをするとそういう気持ちになるんでしょうね、きっと。それくらいイスラエルは命がけですよ。日本人には分かり得ない。

ところでこの二週間位イスラエルの友人から何の連絡も無いんですが、別のイスラエルの友人に聞いたら、彼は予備役に招集されて今エジプトのテロ地域にいるんですって。

日本人の感覚とは一歩外に出ると全然違うんですよ。日本人では想像もつかないことが世の中にはいっぱいある。返事が来ないねなんて言ってたら戦場行ってたなんてことがあるわけですから、何が起きるか分からない。おおらかに構えるしかないということですね。

だから日本の学生、というよりも日本人はね、もう一度平和って何だろうかって考えた方が良いと思うんですね。自分のことは自分で守ろうよっていうのを日本人はもう一度思い起こしたほうがいいんじゃないかなって。どういう方法があるかは様々でしょうけどね。

Connection

Q. 藤野さんがイスラエルから学ばれたことはありますか。

こうやってイスラエルと付き合って良かったなと思いますよ。ビジネスではね辛いことばっかり。あのやろーあいつら裏切りやがってってね笑。

でもイスラエル人と付き合って分かったのが、彼らが一番大切なのは家族って言うところですね。仕事よりも家族。徹底しています。どんなに忙しくて仕事があっても。

日本人だったら絶対これやるよっていうスケジュールがあるでしょ。イスラエル人は放っぽりだして家族を優先します。人生とは何だろうかって考えた時に、家族なんだろうなあってイスラエル人から学んだわけですよ。

しかも彼らの生産性はものすごい。一方、日本人は一生懸命働いているのに生産性も独創性も低い。イスラエル人は仕事ベースじゃないんですね。あいつらは人生、家族が大事なんですけど、だけど結果が出るんです。そこがとても勉強になりますよね。

IJCM藤野様を囲んで

それから日本人が絶対敵わないのが横のつながり。ユダヤ教はね、ラビという宗教指導者がユダヤ人の生活のサポートをするわけですよ。生活に困ると、みんなラビにアドバイスを請うんです。ラビもまた横のつながりが世界中にあって、ネットワークがすごい。だからね、イスラエル人と付き合っているとありとあらゆる話が入ってきます。ワイナリーやワインの話題も入ってきます。

こうした横のつながりを見ていますとね、一歩日本を出たら、まず日本人は敵わない。彼らは助け合いが生活に根ざしていて、しかもそれが世界中につながっているんですから。

Q. 私たち学生にアドバイスをお願いします。

第一次世界大戦が終わる頃までイスラエルはオスマントルコに支配されていたわけですよね。第一次世界大戦後に世界中に散らばったユダヤ人の帰還運動が始まり、それでフランスのロスチャイルド家が援助してあげようって始まったのがワイン造りなんですね。ボルドー系の主要ワイン品種をイスラエルに持ち込んで、イスラエルに根付かせたわけです。

私が好きな話題がそのロスチャイルドなんですけど、ユダヤ教は一週間に一度、金曜日に必ず礼拝がありますよね。その時にはロスチャイルドも、全ての仕事を忘れて仕事以外の話をしたんですって。人生のこと宗教のこと色々なこと。これが彼にとって一番大事な時間だったそうです。私はユダヤ教ではありませんよ。でもこれってきっと、あなた方が成功する一つの道かも知れません。

仕事なんかそっちのけで全部忘れて、人生にとって何が大事かを考える時間を一週間に一度でよいから持つ。これがイスラエル人から学んだこと。とても大事だなと思うこと。そしてきっと皆さん方の人生を豊かにしてくれる秘訣だと、そう思っています。


藤野さん、ありがとうございました。

イスラエルワインは世界史との密接な関わりの中で成長、発展してきたのですね。

一杯のグラスに注いだイスラエルワインを通して、数千年の歴史を感じてみるのも面白いかもしれません。

インタビューを終えて

中山智之

藤野さんのエンジニア時代から、現在の食品業界へ移った経緯、そしてイスラエルワインの嗜み方まで様々なお話を伺いました。インタビュー中にナンバーワンという言葉が頻繁に出てきたことからも分かるように、体育会系だからこその、ナンバーワンにこだわって高みを目指す性格が伝わってきました。また、ブラジルへの駐在や外資系企業と関わる中で、自身の人生を見つめ直していく過程を伺い知ることができました。イスラエルワインへの思い入れやイスラエルの魅力を話していただいたことで、高級なイスラエルワインを是非一度飲んでみたいなと思うようになりました。ありがとうございました。

廣内眞文

インタビューを通して藤野さんのイスラエルワインに対する熱意を知ることが出来ました。ワインのことはもちろんのこと、イスラエル人社会の様子や自己発信の大切さ、様々なことを学びました。インタビューに参加できて嬉しく思います。

Y.Y

インタビュー初参加で、どのような雰囲気で行われるのか不安なところもありましたが、藤野さんの人柄もあってかとても和やかで、リラックスしてお話を聞けました。固定観念に囚われない会社の運営方法やワインの味の表現、ソーシャルネットワーキングサービスの活用などの独自の道で前進していく姿は、自分の将来を考える上でとても勉強になりました。イスラエルワインの魅力やユダヤ人社会の繋がりの強さ、さらに個人的に気になっていた製品ボイコットの事など、イスラエルに関する知識も増え、有意義な時間となりました。このような機会を与えてくださったことに感謝します。


本インタビューは2016年12月20日に行いました。固有名詞、取り扱われているワインの種類などは、インタビュー当時のものです。

  • この記事を書いた人

    中山智之
    中山智之
    東京大学大学院情報理工学系研究科に所属する修士1年。イスラエル発祥のサイバーセキュリティや、ITスタートアップに興味を持っている。それらの技術を理解した上でアウトプットを行い、更に技術発祥とイスラエルというバックグラウンドとの関連性についても調べてみたいと考えている。