旧くから人々は水のある所に集まり文明を築いてきました。イスラエルにおけるキブツもガリラヤ湖南岸に設立した共同村デガニアが始まりであると言われています。

現在世界の人口は約70億人で、100年前(1900年頃、約16億人)と比べ約4倍に増加しています。人類が持続的に発展するためには、水と食料が必要です。

これまでの農業の歴史は生産効率の向上と生産量の安定化を目的に、品種改良や農薬の開発が主要なタスクでした。未来の農業ではそれに加え、より安全で付加価値のある農産物が求められています。

両国の降水量

イスラエルの年間降水量は、435 mm/yearであり、日本の年間降水量1668 mm/yearと比べて約1/4にすぎません1)。イスラエルでは限られた水資源を有効活用するための農業技術が発達してきました。日本で地震に対抗するための土木技術が発達してきた事に似ていますね。

農作物の~未来~

近年、農作物の付加価値として、通常よりも「健康に良い成分」が多い農作物(たとえば高い抗酸化作用を持つリコピンを多く含む高リコピントマトなど)の研究が進められています。慢性的な疾病予防を目的とした機能性食材に期待が寄せられているわけです2)

生物工学の植物分野では、ワクチンや抗菌性タンパク質を植物につくらせ、患者に経口投与するといった研究も国際的に進められているそうです3)。イスラエルは生物工学分野でも世界をリードしていますが、こうした農業と生物工学の分野境界における研究領域にも大きな期待を寄せています。

農業の~未来~

イスラエルには、インテルやマイクロソフトなど世界的に有名なIT企業の研究所が立ち並び、更に多くのITベンチャーがその技術を競い合っています。農業とIT一見、何の接点も無いように見える両者ですが、実は農場の現場管理にIT技術が活用されています。たとえばコンピュータ制御の灌漑システム(水の流れを直接植物の根の部分に向ける点滴灌漑法など)、環境面を監視しながら肥料を注入するためのガイダンスシステムが実用化されています4)

日本においても、熟練就農者のノウハウ継承を目的に支援ツールとして、人口知能によるデータマイニング技術の開発が期待されています5)

これらの技術は未来の農業を担っていく上で大きな役割を持っています。今後こうした分野における技術開発において、日本とイスラエルが世界に先駆けて、未来の農業のスタンダードを作っていけたら素敵ですね。

参考

  • 1) AQUASTAT, FAO: Food and Agriculture Organization of the United Nations.
  • 2) 農業分野におけるIT活用 : 高付加価値化につながる取組み, 電子情報通信学会誌 96(4), 280-285, 2013.
  • 3) 人類存続のための技術として : これからの生物工学が目指す方向性,ビジョンとは(90周年記念座談会), 生物工学会誌, 91(4), 194-204, 2013.
  • 4) イスラエルの情報, イスラエル外務省, 2010.
  • 5) AI農業の展開について 農業分野における情報科学の活用等に係る研究会報告書, 農林水産省, 2009.

この記事を書いた人

戸舘侑孝
環境化学、水環境工学を生業にする化学分析屋さん。趣味は魚釣りと和太鼓。尊敬する人はさかなクンさんです。
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