セファルディ系ユダヤ人の音楽を専門にする歌手、岡庭矢宵さんがイスラエル人ピアニスト、Gilad Chatsav(ギラッド・ハツァーヴ)さんとのコラボレーションによるジャズ演奏会「Sephardi meets Jazz」を開きます。

寺島靖国氏プロデュースのアルバム「Jazz Bar 2014」にも選曲され、シンプルかつ叙情的な弾き口が魅力のジャズピアニスト、ギラッド・ハツァーヴ。初来日となる今回は、日本在住の実力派ミュージシャン達と共にピアノトリオのプログラム、そしてイスラエル政府奨学金を得てイスラエルへ渡った歌手、岡庭矢宵と共にオリエンタルでありながら、どこか日本人のDNAにも共感するセファルディ・ユダヤの歌とジャズとのコラボレーションを展開。日本とイスラエルがモダンに、そしてトラディショナルに音楽で融合する好企画、必聴です!(岡庭矢宵Facebookページより)

にぎやかな曲が多いクレズマーミュージックとは異なり、母親が子供に聞かせるような素朴で、語り物的な曲に特色があるセファルディミュージック。ぜひこの機会に楽しまれてはいかがでしょうか?

セファルディとは?

セファルディ(スファラディ)と呼ばれる人々をご存知でしょうか?

遡ること15世紀。イベリア半島でキリスト教徒による国家回復運動(レコンキスタ)が成功し、イスラム教徒とともにユダヤ人が追放されます。これに起源をもつユダヤ人をセファルディと呼び、セファルディの人々が用いる言語をラディノ語と呼びます。

なんと、そのラディノ語で唄う日本人が岡庭矢宵さん。2013年にはイスラエル政府奨学金でイスラエルのバル・イラン大学に留学し、現地を中心に活動をしています。

岡庭矢宵 / Yayoi Okaniwa (ボーカル)

岡庭矢宵

国立音楽大学卒業後、ヨーロッパ中世・ルネサンス、バロック音楽を中心に各アンサンブルのメンバー、ソリストとして活動。その後、スペイン系ユダヤ人の歌「セファルディ」に魅了され、海沼正利とのデュオで演奏活動を開始。2012年「セファルディ・ユダヤ ~魂の紡ぐ歌~」をリリース後、日本経済新聞文化面にて紹介され、またNHK「地球テレビ エル・ムンド」にもゲスト出演し、全国から多くの反響を呼ぶ。2013年度イスラエル政府奨学金を得て、バルイラン大学に留学。またエルサレム中東音楽学校ではオリエンタル音楽理論その他を学び、地中海周辺地域の音楽スタイルも身につける。現在イスラエルに在住し、各地で演奏活動を行い、「日本人セファルディ歌手」として注目を集めている。

ギラッド・ハツァーヴ / Gilad Chatsav(ピアノ)

Gilad Chatsav

1981年ティベリアス生まれ。6才よりピアノ・作曲を始め、9才より本格的な音楽教育を受ける。その後テルマ・イエリン芸術学校、エルサレム音楽・ダンスアカデミーにてジャズを学ぶ。在学時に映画音楽を手掛け、ゲッシェル財団より受賞。イスラエルの主なジャズ・フェスティバルに出演し、ジャズの他、ブラジリアン、ワールドミュージック等にも造詣が深い。これまでに4枚のCDをリリースし、うち2枚はディスク・ユニオンにて発売され、ジャズ評論家寺島靖国氏プロデュースによる「Jazz Bar 2014」では、彼のオリジナル曲「Sinai」が選曲されている。また2015年International Jazz Dayでは、イスラエル代表としてオーガナイザーを務めた。

ツアー日程

チケットの購入、お問合せ等は各会場に直接ご連絡下さい。

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イベント 日時 会場 料金 出演
ギラッド・ハツァーヴ・トリオ 11/19(木)
開場19:00、開演19:30
六本木KNOB
港区六本木6-1-6 ザクセンビル3F
※東京メトロ六本木駅3番出口徒歩1分
Tel: 03-3404-4001
3,500円 ギラッド・ハツァーヴ (P.)、マーク・トゥリアン(B.)、海沼正利(Ds.)
岡庭矢宵 × ギラッド・ハツァーヴ プロジェクト “Sephardi meets Jazz” 11/20(金)
開場19:00、開演19:30
コムカフェ音倉
世田谷区北沢2-26-23 EL NIU B1F
※京王井の頭線・小田急線下北沢駅北口徒歩1分
Tel: 03-6751-1311
3,500円 岡庭矢宵(Vo. Oud)、ギラッド・ハツァーヴ(P.)、海沼正利(Qanun, Ds)
岡庭矢宵 × ギラッド・ハツァーヴ プロジェクト “Sephardi meets Jazz” 11/21(土)
開場19:00、開演19:30
大磯エピナール
神奈川県中郡大磯町国府本郷1221
※JR大磯駅からバス5分
Tel: 0463-73-0948
3,500円 岡庭矢宵(Vo. Oud)、ギラッド・ハツァーヴ(P.)、海沼正利(Qanun, Ds)
ジャズセッションパーティー with ギラッド・ハツァーヴ 11/23(祝)
開場19:00、開演19:30
六本木KNOB
港区六本木6-1-6 ザクセンビル3F
※東京メトロ六本木駅3番出口徒歩1分
Tel: 03-3404-4001
3,500円 ギラッド・ハツァーヴ(P.)、海沼正利(Ds.)、瀬尾高志(B.)、藤田明夫(Sax)、岡庭矢宵(Vo.)、etc.

Sephardi meets Jazz

「セファルディ」を歌う – 岡庭矢宵さんインタビュー : 広報誌「イスラエル」7・8月合併号掲載記事

※JIFAでは、広報誌「イスラエル」2012年7・8月合併号にて、岡庭矢宵さんのインタビュー記事を掲載しています。

岡庭矢宵
岡庭矢宵さん

「セファルディ・ユダヤ—魂の紡ぐ歌—」というコンサートが5月23日、東京の恵比寿で開かれた。15世紀、イベリア半島からイスラムを追い出し、キリスト教国家を打ち立てたレコンキスタによってユダヤ人もスペインから追放されるが、そのスペイン系ユダヤ人の伝統音楽だ。それを日本の女性歌手が歌うという珍しい音楽会。アラブ弦楽器カーヌーンにのせて歌う哀調を帯びた響きが、イスラエルにもう一つの魅力を加えている。

スペイン系ユダヤ人の音楽、東欧系「クレズマー」と対応

離散ユダヤ人には大きな二つの流れがある。一つは、ポーランドやロシアといった東ヨーロッパに住んでいたアシュケナジーだ。もう一つがスファラディ(セファルディ)だ。スファラディは、スペイン系と北アフリカ系のユダヤ人を意味することが多いが、これは中東・アフリカ系ユダヤ人をスファラディの主席ラビが管轄しているという事情による。

本来のスファラディ(ヘブライ語で「スペイン」をスファラッドという)は、イベリア半島から逃れてバルカン半島、ギリシャ、小アジアといった当時のオスマン帝国の域内、さらにイタリア、オランダなどに移住したユダヤ人の子孫である。今回演奏されたスファラディ音楽は、このスペインに起源をもつユダヤ人のものである。

アシュケナジーにはクレズマー音楽があり、日本イスラエル親善協会が5月14日に開いた「イスラエル独立64周年記念の夕べ」で樋上千寿さんら3人編成のオルケステル・ドレイデルが演奏した。それに対応するのがスファラディの音楽である。

歌うのは女性歌手の岡庭矢宵さん。伴奏のカーヌーンは海沼正利さん。カーヌーンは、箱形の共鳴箱に70数本の弦を張ってあり、つま弾いて演奏する一種の琴で、多彩な奏法ができる。歌詞は、ラディノ語というスペイン語とヘブライ語が混じった言葉で、スファラディが使っていた言語である。

スファラディ音楽の題材はユダヤの寓話、ヨーロッパの民謡、ロマンス、バラードと多様で、語り物的なものが多い。例えば、旧約聖書・創世記に登場するノアの曾孫で「地上で最初の勇士となった」「主の御前に勇敢な狩人」「彼の王国の主な町は、バベル、ウルク、アッカド」と書かれているニムロドを語る「ニムロド王」、フランク王国の女王と召使いの恋を語る「王の宮殿にて」など。

サラエボに伝わるラブソング、トルコの恋歌や失恋の歌、スファラディが安息日の食事の席で歌う「花咲ける薔薇」、ブルガリアで結婚式に歌われた「婚礼の家」なども演奏された。

スファラディ音楽の譜面はイスラエルでも手に入りにくく、埋もれてしまった曲が少なくないという。岡庭さんによるスファラディ音楽のコンサートツアーをこの秋、イスラエルで開く計画が持ち上がっている。(岡庭さんのCDが出ている。発売元はフロレスタン。2,800円)

「魂の根源に触れてくる音楽」岡庭さんに聞く- 祇園囃子とリズムがそっくり

—— スファラディ音楽とは。
岡庭さん: 母親が子どもに聞かせる歌です。ほとんど女性が歌っています。クレズマーとは違って、賑やかにわいわい、という歌ではありません。情感があるというか、素朴で切なく、胸をつかまれるようなメロディーです。

—— どういうきっかけでスファラディ音楽に入ったのですか。
岡庭さん: 2010年に、何か独自のものを企画して演奏するというプロジェクトがあって、考えているときに突然この音楽に出合ったのです。私は中世スペインなどのヨーロッパ古楽を歌ってきたのですが、スファラディの歌のシンプルなメロディーにオリエンタルなものを感じたのです。自分の中の血が反応したというか、魂の根源に触れてくる感触です。それで浅草で演奏したのが最初です。

—— 楽譜はあったのですか。
岡庭さん: 全くありませんでした。輸入のCDを山のように買ってきて、耳でメロディーをコピーしました。そのメロディーをもとに海沼さんに伴奏をつけてもらいました。

カーヌーン
伴奏に使われる「カーヌーン」

—— カーヌーンの伴奏のためか、中東の音楽のような感じが強いですね。
岡庭さん: 面白いのですよ。京都の祇園祭の囃子、コンコンチキチン、コンチキチンというでしょう。それと全く同じリズムがスファラディ音楽にあるのです。アクセントも同じです。これはエジプトのバラデイというリズムです。大体、祇園祭はおかしいお祭りじゃありませんか。山鉾にペルシャの絨毯とかゴブラン織りを飾っていますよね。どういうつながりがあるのかは分かりませんが。

—— ラディノ語はどうやって勉強されましたか。
岡庭さん: CDで聞いてその通りに歌っています。イスラエルに行った時にイエメン系のユダヤ人歌手、ギーラ・ベシャリさんにいくらか教えてもらいました。以前からスペイン語、イタリア語やラテン語で歌っていましたから入りやすかったのでしょう。

—— 公演ではダンスもされますね。
岡庭さん: 歌に合わせて独自のダンスをやっています。以前からルネッサンス時代やバロックのダンスを習っていましたし、ベリーダンスとかコンテンポラリーダンスのレッスンも受けていましたから。スファラディ文学をやっているヘブライ大学の教授が、体の動きが日本的で、ユダヤの伝統と日本の伝統の出合いだと言ってくださったんですよ。

—— これからどのような活動をされる計画ですか。
岡庭さん: 私、琵琶歌の稽古もやっているのですが、琵琶歌にもスファラディ風の箇所があるんです。謡もやっているので、スファラディを歌い続けながら、何か新しい世界が開けていくといいな、と思っています。それに、日本は震災もあって、今状況が悪いのですが、ユダヤの人の歴史をみると、やはりとてもひどい状況を生き延びてきているじゃないですか。ユダヤの歌を通じて日本が次の一歩を踏み出す力を引き出せれば、と思いながら歌わせてもらっています。