コル・ハオラム・クロー(全世界 そのすべては)

全世界 そのすべては非常に狭い橋である。
そして大切なことは全く恐れないことである。

(詩 ラビ・ナフマン「コル・ハオラム・クロー」の歌から)

故イツハク・ラビン首相の追悼の場でとりわけ感動を呼ぶ

バルーフ・ハヤット氏
作曲者バルーフ・ハヤット氏(写真: 著者)

1995年イツハク・ラビン首相が暗殺された直後のことである。

彼の亡くなられた場所「テルアビブ市庁舎広場」に舞台を作り、シュロモー・アルツィー、リタなどイスラエルを代表する有名歌手数十人が、故イツハク・ラビンにむけ、歌で野辺送りをする会が催された。

会場となった市庁舎広場には、一説には30万人ものイスラエル人が集まったという。

その中でもひときわ感動を呼んだひとりが、「コル・ハオラム・クロー(全世界 そのすべては)」という歌を歌った著名歌手、ドゥドゥ・フィッシャーであった。

天にまで響き渡るほどの歌声に、ひときわ感動を呼んだ。

戦場では「心を強める」ことが大切

私は2006年、この歌の作曲者バルーフ・ハヤット(英語名: チェイト)さんの家に伺いインタビューしたことがある。

ヨシヤ、この歌はいつ作曲したって?それは1973年のヨムキプール戦争の時に作ったんだ。

この歌はエジプトやシリアなど国境線で戦っている兵士を励ますために作曲をした。兵士を慰問しに前線に出向いて一緒に歌ったんだ。

1973年のヨムキプール戦争は、困難な戦争だった。ボクは何が自分に出来るのだろうかと思ったんだ。

そして出した結論は、戦っている彼らの力になればと歌を作って励まそうと決めた。

戦っている兵士は途中必ず恐怖心が湧いてくるんだ。戦争はどうしたって怖いものだろ?

その時、心強めてくれるのが『信仰』だ。

戦場ではどんな人でも『恐れない』こと、『心を強める』ことが大切なんだ。

ボクは祈祷書などいろいろな本を読んだ。それでブラッツラヴのラビ・ナフマンのこの詩を選んだ。

これを読んだときインスピレーションが湧いてきて、すぐに曲が出来た。

全世界 そのすべては非常に狭い橋である。
そして大切なことは全く恐れないことである。

ラビ・ナフマン?この歌の詩を書いたラビ・ナフマンとは、ナフマン・ベンスィムハーのことで、ハシディズムの創始者バアル・シェム・トヴの曾孫にあたるんだ。

サッカーの試合でも。イスラエルの生活に広く密着した歌

「コル・ハオラム・クロー」の歌は、現在でもイスラエルのサッカーの試合のハーフタイムで、前半負けているチームのサポーターが、
選手に励ますために歌うこともあると友人から聞いた。

それくらいイスラエルの生活に広く密着した歌になっている。

この記事を書いた人

村上義弥
1960年生まれ。1983年~1984年イスラエルに留学し、イスラエル音楽に心惹かれるようになる。1996年、ナオミ・シェメル、エフード・マノール、ドヴ・ゼルツェル氏等、約30名のイスラエルの音楽家を半年間かけて取材。その後も2003~2006年、2008年と続けて音楽家取材でイスラエルを訪問する。またイスラエルのギター奏者の第1人者オーリー・ハルパズ氏よりギターを習得。現在広告代理店勤務。