JIFA会員の皆様にお届けしている広報誌「イスラエル」。ウェブサイトでは、過去の号の注目記事をピックアップしてご紹介します。広報誌「イスラエル」の購読をご希望の方は会員登録をお願い致します。 >> JIFA会員申込
本年の定時総会において大野功統理事が新会長に選出されたが、本誌は日本でイスラエルに関わる各界の方々と新会長との対談を随時掲載する予定である。その第一弾として、知日派、親日派として知られるルツ・カハノフ駐日イスラエル大使との対談を行った。
大使は、このところ日本でも注目を集めている新たな技術にもとづく価値の創造や社会の変革を意味する「イノベーション」などについて、日頃の持論を熱く語った(まとめ・二階宗人JIFA副会長)。
アジアはライフワーク
大野会長 大使は日本駐在が3年になります。日本についてどのような印象をおもちですか。
カハノフ大使 大学では中国語や日本の歴史を勉強し、外務省に入省してから日本以外にも台湾や香港に駐在しました。
大野 アジアはまさにライフワークなのですね。
大使 仕事のことでいえば、東日本大震災の際、イスラエルは被災地に医療チームを緊急派遣して、地元の方々に大いに感謝されましたが、そのとき本省でアジア地域の担当者として指揮をとった経験もあります。
それから日本に着任してからですが、北は北海道から震災で被災した南三陸町、南は沖縄まで各地を訪問しました。大野会長の出身地の香川県には二度行きました(笑)。日本をよく知ることは、日本との関係強化を進めようとしているイスラエルの外交方針の一環でもあるのです。
サバイバルの歴史の延長線上にある「イノベーション」
大野 イスラエルはいま、「中東のシリコンバレー」といわれ、そのイメージを変えつつあると思うのですが、何がこの変化の背景にあるとお考えですか。
大使 イスラエルは「変化」していません。歴史的にサバイバルする必要に迫られてきたという、その歴史的な延長線上に現在の「イノベーション」といった技術革新やビジネスモデルとしての「スタートアップ」があるということなのです。
イスラエルは小さな国であり、資源小国です。黙って座っているだけで石油収入が入ってくるわけでもない。国土の半分は砂漠であり、水を得るためには浄水技術を発展させなければならない。ことほどさように、チャレンジし続けなければやっていけないのがイスラエルという国なのです。
そうしたチャレンジがもつ一つの側面が「イノベーション」ということなのですが、それがいま、国の基幹をなしています。軍事技術も、それ自体のためではなく、しっかり民需産業に転換する努力をしています。いまや世界に冠たるイスラエルのIT技術や超小型衛星の開発は、このへんに起源があると思っています。
大野 旺盛なチャレンジ精神ですね。
大使 そうですね、失敗してもチャレンジし続けるというのが国民性です。「リスクをとる精神」みたいなものが根底にあって、それを政府、産業、大学が一体となって支えているのです。国は国民を信頼しています。
お互いを理解し合うための長期的な取り組みが大切
大野 すばらしいことです。翻って日本はどうですか。
大使 日本は戦後、廃墟の中から立ち上がりました。しかも平和主義を堅持しています。心から尊敬しています。イスラエルも自国を防衛できれば十分なのであって、隣国との共生を望んでいます。
大野 「ピースパワー」ということですね。両国間の交流をどうお考えですか。
大使 お互いによく知り合うことが何よりも大切でしょう。その意味でも旅行者がもっと増えてほしいと思っています。日本を訪れるイスラエル人は増えていますが、イスラエルを訪れる日本人観光客はまだまだ少ない。そのため、両国を結ぶ航空会社の直行便もなかなか実現に至りません。直行便をもつ中国や韓国からの観光客がイスラエルで急増しているのとは、まったく対照的です。
大野 どういう対策をとればよいのでしょう。
大使 日本イスラエル親善協会さん、頑張ってください(笑)。まずはお互いに理解しあうための長期的な取り組みが大切だと思います。
大野 と、言いますと。
ハイテク農業で自給率向上
大使 とにかくさまざまな分野で協力し合うことです。ITや宇宙、医療機器の分野のほかに、たとえば農業分野があります。
日本の農村は過疎、高齢化問題を抱え、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の批准後の農業の構造改革を課題としていますよね。その点、イスラエルのハイテク農業に関する先端技術は、両国が利益を享受できる分野だと思います。灌漑などを、コンピューターを駆使して高度に管理する技術なのですが、これによってイスラエルは高い食料自給率を確保し、農産品の輸出政策を推進しています。
大野 たしかに、ハイテク農業などは「ウインウインの関係」となりえますね。こうした情報をもっと喧伝してイスラエルのイメージを高め、ひいては日本社会の豊かさにつなげることができればいいと思います。
日本イスラエル親善協会も、両国民がさまざまな分野で協力し合えるように尽力したいと思います。
ルツ・カハノフ大使
駐日イスラエル大使。ヘブライ大学東アジア研究修士課程を終えてイスラエル外務省に入省。在香港イスラエル総領事館の領事や在北京イスラエル大使館公使参事官、外務省北東アジア部長を経て駐ニュージーランド大使。台北イスラエル経済文化事務所長、外務省アジア太平洋担当次官補を歴任。
この記事を書いた人
- 投稿タグ
- 過去記事紹介