シャローム!学生部会の中山智之です。

突然ですが皆さんはイスラエルワインって飲んだことはありますか?私は2016年の日本イスラエル親善協会のイベント、イスラエル独立68周年記念の夕べに参加させていただいたときに、バルカンというワインをいただいたのが初めてです。

先日、そのバルカンワインは株式会社オリーブガーデンさんに提供していただいたことを知りました。詳しく知りたいと思ったため、株式会社オリーブガーデン代表取締役の金丸洋一様にインタビューさせていただきました。

Q: 金丸さん、よろしくお願いします!まず御社の概要を教えてください。

オリーブガーデン金丸様
株式会社オリーブガーデン
代表取締役 金丸洋一様

何年も前のことですが、スウェーデンから日本に留学してきた子と私の娘が、大学で友達になったんですよ。彼女は日本でオリーブの鉢を育てていたんですが、IKEAに就職して帰国する際にそれを我が家に置いていったので、それからずっと育てています。もちろん実もなりましたよ。それが私のオリーブとの出会いです。

この会社を始めるとき、イスラエルで作られている消費者向けの農産品や工芸品などの多様な商品を扱う予定だったのですが、実際にはイスラエルの商品だけでビジネスをするのは難しいと分かったため、オリーブやナチュラルに関わる商品に絞りました。

会社の名前は、イスラエルのパートナーからはハイテクイメージの案がいくつか来ましたが、買ってもらう人が自分の庭を想像できる名前と思いついたのが”オリーブガーデン”でした。自分も植えていますからね。

現在はオリーブの苗木や盆栽、それからイスラエルから輸入したオリーブオイル・オリーブ食品・ワイン・オリーブオイルからの化粧品・スパイスを販売しています。また、2017年1月からはハワイ産のマカデミアナッツのオイルも販売しようと思っています。

それから日本の苗木屋さんと提携して、2017 年 1 月から本格的にオリーブの苗木販売を始めます。鉢でも十分に育ち実を採ることもできるので、多くの人に育ててもらえるよう、栽培情報も併せて提供していきます。更に 2017年5月にイスラエルから、日本には無い約40品種の苗木を輸入して、日本で育ててから販売する計画です。2、3年のうちに100品種を揃えるのが目標です。農家にとってはそんなにたくさんの品種はいらないかもしれませんが、実を食べるテーブルオリーブ向けの、実の大きな品種や樹形の美しい品種を揃えて販売したいと思っています。

また、私が別に社長を務めている有限会社アップルグローヴ・ハウスで、オリーブの苗木に札を付けて、QRコードを通して品種情報と個体情報を管理できるシステムを開発しています。畑を歩きながら、この木に肥料をやろうとか、この木はそろそろ剪定しよう、といった情報をスマホと PCで一元管理できるようにしたいと思っています。

イスラエルのスーパーに並ぶオリーブ
様々な種類のテーブルオリーブやピクルスが並ぶイスラエルのスーパー
(以下写真は、株式会社オリーブガーデン様提供)

Q: 私はバルカンワインをきっかけにして御社のことを知ったのですが、社名の通りオリーブの販売に力を入れているのですね。

日本にオリーブが入ってきたのは百数十年前なんですよ。だから日本のオリーブの歴史を、青銅器時代の遺跡からオリーブの種が見つかったとか、そんな人類 6 千年、8 千年の本場のオリーブ栽培の歴史と比べると、雲泥の差があります。

オリーブについて勉強して、オリーブの原点を知れば知るほど、日本人のオリーブに関する知識は正確性に欠けていて、正しい情報や知見はごく一部分しか届いていないと感じるようになってきたんです。

Q: 具体的に教えてください。

今世界中で、エキストラバージンオリーブオイルの偽物が売られているんですよ。添加物を入れていたり、エキストラバージンオリーブオイルは少しで残りは他の油を混ぜたり、着色したりとか。アメリカの調査では、輸入した7割のオイルがエキストラバージンオリーブオイルの基準を満たさなかったという報告もあります。

これは聞いた話ですが、絶対にオリーブオイルの偽物はなくならないと。なぜかというと、イタリアではマフィアの収入源だそうで、古代ローマ時代ではすでにオリーブオイルは一つの産業で、地中海沿岸で取引され、6千年以上に渡って食べているじゃないですか。そういう地域では、オリーブオイルは大きなビジネスになるんです。でも食の偽装はそこだけの話ではないですけどね。

日本にはオリーブオイルの品質についての基準が無いから、エキストラバージンオリーブオイルと言っても、良いものもあればそうでないものもあります。例えばスーパーで販売されているエキストラバージンオリーブオイルって、はっきり言いますが味は全然違う。本物には苦味と辛味があるんです。エキストラバージンオリーブオイルだけにあるポリフェノールがあり、それが苦味や辛味の元なんですよ。

だから「スーパーで買ってる」「オリーブオイル毎日使ってる」、「マイルドでいいんですよ」って言う人に色々なイベントでテイストしていただきますとね、まず香りが違うと驚かれ、次に辛いとか苦いとかおっしゃるんですけど、これが本物なんですよ。

本物で高品質のエキストラバージンオリーブオイルを作るにはコストがかかり、値段に反映します。だから250ミリリットルのボトル換算で2千円近傍じゃないやつは怪しいと思った方が良いと思います。アメリカでも500ミリリットルで15ドル以下は買わない方が良いという声もあります。もちろん前年度のものだから安く売りますということは私たちもありますが、それだけ鮮度にこだわっています。

イスラエルのマーケット
イスラエルのマーケット

Q: オリーブオイルの業界では、品質維持が問題になっているのですね。その観点から御社はどのような取り組みをされているのですか。

オリーブオイルの輸入に2ヶ月近くかかる船便ではなく、1週間で届き温度も管理できる航空便を用いています。また、オリーブオイルの品質検査を国際オリーブ協会の基準に従ってイスラエルで行いますが、更に日本に運ばれてきた段階でもう一回検査をします。このようにしてオリーブガーデンでは品質を保証しています。

また先程も言ったように、日本ではオリーブオイルの知見や理解がまだ一般に広がっていないんです。そのためにオリーブ情報館を作ってできるだけ正確な情報発信をし、オリーブのことを知ってもらえるように取り組んでいます。

現状オリーブオイルの販売は苦戦していて、個人の消費はなかなか伸びていません。ただし、一回オリーブオイルの良さを分かっていただけた方は、もうサラダ油は使えないと言って、リピーターになってくださいます。オリーブガーデンはまともそうだと、売っている商品も
まともだねと、コツコツと知っていただいて、買っていただく。ただそういう変化は非常にゆっくりだから、時間がかかると思っています。知識ベースを増やしそれを提供することで、他社さんとは違う戦略で行こうと思っています。

イスラエルの食事風景
イスラエルの食事風景

Q: そうした品質維持の観点から、オリーブオイルメーカーと契約する際の注意点を教えてください。

最初に取引していた会社で一回製品事故が発生したため、2014年に再度イスラエルの大手のオイルメーカー6社全部に足を運んで、自分が作成した判断シートに基づいて現地でオイルのテスト、製品管理などの調査をしました。

オリーブオイルってオリーブの種からできるのではなくて、果実のジュースなんですよ。実を採った瞬間から酸化が始まってしまいます。だから高品質のオリーブオイルを作るには、いかに早く大量に、適切な温度管理でジュースを絞って沈殿させて落ち着かせて出荷でき
るか。これに尽きます。

だから「手摘みのオリーブから作ったオイルです」っていうのは必ずしも高品質とは限らないと思っています。確かに手摘みして選別して搾油してすぐ出荷することができれば良いオイルは作れると思います。だけどオリーブだけで生計を立てることができるサステイナブルなビジネスになるかというと非常に疑問。せいぜい数百本が精一杯で、ではそれで農家の家族を養えるかというと、非常に疑わしいと思います。

だからオリーブオイルをきちんとしたビジネスとして続けていくためには、機械化が必要だと思います。オリーブ畑も自分で持っていないといけないですよね。他のオリーブ農家から買ったオリーブを使用するのではなくて自分で畑を持っていること。更に搾油工場を持っていて、搾油工場までの距離が近いこと。加えて品質管理や科学検査がしっかりなされていること。畑も搾油工場も全部チェックしました。私はメーカー出身なので、工場を見ればその会社のことは大体分かります。

こうした条件を満たしていたことから、最終的にグシュールというオリーブオイルメーカーと契約することにしました。グシュールは、ゴラン高原で最初にオリーブ畑の点滴灌漑による栽培法を導入した会社で、各生産プロセスにしっかりと管理が行き届いていました。

現在オリーブガーデンが扱っているオリーブオイル用のオリーブの品種としては、イスラエル原産品種のソウリ、イスラエルの砂漠で見つかって品種改良したバルネア、バルネアとイタリアのマンザニーロを掛け合わせて品種改良できたアスカル。これがメインの3品種です。それからギリシャ原産のコロネイキ、イタリア原産のコラティーナ。コラティーナはものすごくハイポリフェノールですごく辛いので、イタリアではブレンドして使われています。パンチがあって美味しいんです。それからフランスの原産品種のピシュリーン。

オリーブの実収穫専用のトラクター
オリーブの実収穫専用のトラクター

Q: それではイスラエルや中東が原産品種のオリーブについて教えてください。

オリーブの DNA を分析すると、オリーブは大体 3 タイプに分かれることが分かってきました。その原点は古代パレスチナの地で、ここから人類の食としての栽培が始まったと言われています。そのことに個人的に興味があって、ソウリやナバリといったイスラエル原産品種と言われるオリーブを追いかけているんです。

だから私が取引しているイスラエルのオリーブ農家のうち何社かには、オイルを必ず買うからソウリは絶対に栽培をやめないでくださいねとお願いしています。一般的に言えることですが、美味しいものやお金になるものしか扱わない。でもそうすると野生種ってどんどん死んでしまいます。ソウリは非常に美味しいんだけど、全体の栽培量が少ないのです。

イスラエルのオリーブ庁としては少なくともオリーブの DNAについては全部保存する姿勢のようですが、イスラエルのオリーブ農家は、スペインやイタリアに価格競争で勝てず、減りつつあるんです。苦しいと言っていましたね。

イスラエルオリーブ庁の品種保存庫にて。写真はソウリ種
イスラエルオリーブ庁の品種保存庫にて。写真はソウリ種

Q: 今ご自宅でオリーブを栽培されているのですよね。

バルネアの実
バルネアの実

玄関の鉢と自宅の畑に、イスラエルから輸入したバルネア、コロネイキと、ピクアルを育てています。実際に育ててみて、日本の土壌に最適化させるのはなかなかノウハウが要るなと思いました。

日本の土は測定してみると、酸性が強い。それで一時期成長が悪かったんですが、思い切って畑に石灰を混ぜてpHを7近くまで上げたら、グングン成長しました。やっぱり自分で栽培してみないと分からないこともありますし、情報発信もできませんからね。

Q: 今まではオリーブと言えば地中海というイメージしか持っていなかったため、恥ずかしながら、日本でもオリーブを栽培できるということを知りませんでした。

日本で栽培することもできます。私が現地を見た最北端は宮城県の石巻市まで。ただ良い実を採れるオリーブが育つかどうかは別です。大事なことは、受粉の時期に雨が降らないこと。更に実が大きくなる時期にも雨が降らない方が、水っぽくないオリーブが育ちます。

そういう観点から見ると、意外にも日本でオリーブの栽培に最適なところは、関東だと思っています。関東の梅雨は6月から7月ですよね。オリーブの花が咲くのは5月の初めなんです。だから受粉して結実しやすい。もっとも夏以降に 2016 年のような長雨が続くと、炭
そ病などになりやすいと思いますが。

ただ、色々な植物って最終的に日本で十年二十年三十年もすると最適化、ローカライズするじゃないですか。リンゴだって昔海外から来ましたよね。日本人だってそう。時間はかかると思いますが、何品種もたくさん植えて最適化がなされることで、良いオリーブができるんじゃないかなと思っています。

ヤッファからテルアビヴを臨む
ヤッファからテルアビヴを臨む

Q: ここからはイスラエルワインについて伺います。イスラエルでは家族経営のブティックワイナリーが多いと言われますよね。

イスラエルにはIntelの研究所がありますよね。そこのディレクターを退いた方が数年前にワイナリーを作られたのですが、そのオーナーのご先祖はグルジア(現ジョージア)の方だそうで、ジョージアに行ってそこで造られた甕をイスラエルまで運んできたんですって。ブド
ウ畑も自分で購入されています。できたブドウを甕で熟成させてから、ステンレス容器に移して、ITで温度管理して、ワインを造っています。けれどもできる量は少ないと思います。

Kadama Winery のオーナー、Lina Slutzkinさん
Kadama Wineryのオーナー、Lina Slutzkinさん

これは何にでも当てはまると思いますが、ワイナリーにおいても、ブティックワイナリーとして小さい規模で造っていこうというものと、ある程度輸出をして大きくしていこうというものに分かれるんじゃないかなと思っています。ワイン造りにはお金が必要ですから、ワイナリーというのはもともと資金がある人が始めるか、キブツと組むかのどちらかが多いんですよ。

それでテルアビブに、ブティックワイナリーが造ったワインだけを揃えたお店があるんです。お金を入れると蛇口からワインが出てきて、テイスティングができる。日本の大きな酒造じゃなくて小さな酒造だけ集めて利き酒を行うイメージです。そうやって皆がブティックワイナリーを助成するイスラエルの仕組みは、面白いと思います。

テルアビブのワイン専門店(右手の蛇口の上にお金を入れる)
テルアビブのワイン専門店(右手の蛇口の上にお金を入れる)

ところでRobert Mondaviという人が始めたワイナリーがカリフォルニアで大成功しました。農業で有名なUC Davisに、その名前を冠したRobert Mondavi Instituteという研究所があります。そこの教授が1972年にゴラン高原に行って、ここの土地はワインの栽培にベストだと言って、ブドウを植えたんですよ。それで実際にすごく良いブドウが採れて、良いワインができることが証明されたんです。

つまりイスラエルのワインは、ブドウの品種は世界で栽培されているインターナショナルの品種、テクノロジーはアメリカ、UC Davis。イスラエルでお会いしたワイナリーの人達はほとんど、カリフォルニアで醸造学の講義を受けているようです。

Q: そんなイスラエルワインの魅力を教えてください。

イスラエルワインってあまり知名度がありません。だけれど飲んでみると美味しい。そんな意外性を持っていることだと思います。それで今オリーブガーデンが一生懸命取り組んでいるのがギフトパック。もちろん自分でも飲んでいただきたいんですけれども、イスラエル
のワインをギフトであげると面白いし、知っていただけると思っています。

イスラエルのワインは美味しいということに加えて、更にストーリーを提供できるんです。7世紀頃にイスラム教徒の侵攻によって、イスラエルではワインの製造が禁止され、ワイン用のブドウ品種が途絶えてしまったんですね。

個人的にすごく興味があって追いかけているのですが、イスラエルでは5年位前から、イエス・キリストも最後の晩餐で飲んだ、古代から 7 世紀まで造られていたワインのブドウの品種を探し出そうというプロジェクトがあります。古代に飲まれた白ワインの品種についてはやっと、ほぼこれだというものが見つかっていて、既に栽培され、ワインも一回造られています。現在は赤ワインの品種を探しているようです。

昔のワインってどんな味をしてるだろうとか、どうやって腐敗を防止していたのだろうとか、昔の方法に従ってワインを造ってみようというプロジェクトもあります。ワインが製造されていた遺跡の調査中に、ブドウの種とオリーブの種が一緒に発見されることもあるようです。

オリーブも同様です。イエス・キリストが死んだとき、ユダヤ教の戒律に従って埋葬されましたよね。24時間以内に死体を埋め、聖油で、つまりオリーブオイルで体を拭く…

こうした面白いストーリーはたくさんありますよ。だから私はルーツを、モノづくりの原点を追究したい。6千年、8千年の叡智があるオリーブオイルやワインのオリジナリティを知りたい。そういうストーリーが楽しんでいただける話題だと思っています。

Let’s go to the original point!

テイスティングの風景。Dalton Wineryにて
テイスティングの風景。Dalton Wineryにて


金丸さん、ありがとうございました!

イスラエルワインをきっかけにしてお願いしたインタビューが、ワインのみに留まらない思いがけない分野にまで広がりを見せました。原点に立ち返ることの面白さと大切さ、そして金丸さんの博識さを、インタビュー記事を通してお伝えすることができたでしょうか。

インタビューを終えて

中山 智之

オリーブのことを皆に知って欲しい、オリーブの文化を日本に根付かせたいという金丸さんの思いが伝わってきました。原点を追究したいという姿勢は理系のそれに似ていると感じ、技術者としてメーカーで勤めた金丸さんの性格がにじみ出ていて面白かったです。また、日本にいると全く想像ができませんが、オリーブは 6 千年以上も歴史が続いており、海外ではマフィアの資金源になっているということに驚きました。ワインとオリーブの原点を追究し、ストーリーを伝えようという姿勢は斬新な試みだと思いました。ありがとうございました。

後藤 智子

今回、初めてインタビューに参加させていただいたのですが、金丸さんの豊富な知識と経験から展開されるオリーブオイル、イスラエルワイン1つ1つのお話が非常に興味深く、内容は濃いのにあっという間の時間となりました。特にイスラエルワインの差別化として、「もしかしたらイエス・キリストが最後の晩餐で飲んだワインかも?」といったストーリーも提供できる、とのお話が印象に残りました。今回テイスティングは無かったのですが、金丸さんの拘りに応たえたイスラエルワイン、オリーブオイル、ぜひ機会を設けて頂きに伺いたいと思います。


本インタビューは2016年12月22日に行いました。固有名詞、役職、取り扱われている商品や種類などは、インタビュー当時のものです。

記事作成にあたり、日本イスラエル親善協会によるイスラエルビジネス・経済情報配信メールの2015年9月号を一部参考にしました。

  • この記事を書いた人

    中山智之
    中山智之
    東京大学大学院情報理工学系研究科に所属する修士1年。イスラエル発祥のサイバーセキュリティや、ITスタートアップに興味を持っている。それらの技術を理解した上でアウトプットを行い、更に技術発祥とイスラエルというバックグラウンドとの関連性についても調べてみたいと考えている。